最凶の男

「はぁ、最近つまらないわね〜。息子は結婚しちゃうし嫁はいじめがいがないし・・・」
何もない闇の中呟いているこの美しい女性はもちろん我らがゼラス様!!
息子もとい部下のゼロスが結婚してからというもの、する事がなくて暇を持て余している。
最初は嫁をいじめて楽しもうとしていたようだがそう簡単にいじめられる嫁ではなかった。
こちらが何かをすればすぐに生への賛歌をうたう・・・・・・・。
これがまたよく効く歌で、気分が悪くなる事請け合い・・・・・・・。
毎日毎日闇の中で歌を歌って退屈を紛らわせていた。
「う〜ん、今日は何を歌おうかしらね」
両腕を組んで今まで歌った事のない歌を探す。
そこにふっと懐かしい気配が漂った。
「・・・・・ゼロス?」
間違えるわけはない。自分がよく知っている気配。
紛れもなくゼロスだ。
「あら、どうしたの?まだ仕事はないから帰ってこいなんて言ってないわよ?」
「・・・・・・ゼラス様」
いつもより小さく押し殺したような声。
ゼロスは一回大きく深呼吸すると一気に吐き出す!!
「聞いてくださいよ!!!リナさんってばひどいんですよ!!!」
・・・・・・・・・・・・。
(なぁんだ、夫婦喧嘩ね・・・・・・・くだらない・・・・・・)
ゼラスは冷めた目でゼロスの様子を見る。
ゼロスは一切気にせずに事情を話し始める。
「今日の昼の事なんですけど、リナさんはお昼御飯の用意を買いにお店に行ったんです」
きちんと正座をして話すゼロス。
だが、行儀よくしているがものすごい剣幕だ・・・・・。
ゼラスはただただ呆れた。
(・・・・・べつに話してなんて言ってないのに)
「僕は泊まっている宿で待ってたんですけど帰りが遅いので心配になって迎えに行ったんです」
「・・・・・・・何が心配だったのよ・・・・あのリナ=インバースよ?」
「今はリナ=メタリオムです!!僕の奥さんなんですから心配ぐらいします!!」
「・・・・・・・あっそう・・・」
「で、そんな事はいいんです!!僕が探しに行ってそこで見たものは・・・・・・・・」
片手を思いきり握ってフルフルと振るえている。
よほど頭にきているらしい。
いつもだったら閉じてにっこりと笑っている瞳も今日は全開で鋭い光を放っている。
(・・・・・どうせ他の男といたんでしょうね・・・)
「僕以外の男ににっこりと微笑んでいるリナさんだったのです!!」
「・・・・・・やっぱり」
ゼラスは吹きだしてしまいそうなのを必死で抑えた。
くだらない、あまりにもくだらなすぎる。
ゼラスにはゼロスの話がくだらなくて聞いて損したような気になった。
だが、ゼロスにとっては一大事なのだ。
「ね?ひどいと思いませんか!?・・・・・・僕にさえ滅多に微笑んでくれないのに・・・・」
(・・・・そっちが本音か・・・・・・)
ゼラスは思わずため息が出てしまう。
「で、その後どうしたわけ?」
「もちろんその男にはお仕置きしましたよ」
「・・・・・・・・どういうおしおき?」
聞きたくはないがとりあえず聞いてみる。
運がよくても半殺し、運が悪ければ・・・・・・・・・。
「まず、リナさんの笑顔を見た両目を潰して両腕を引き裂いてカタート山脈に捨ててきました」
あっさりというゼロス。
口調はあっさりとしているが内容は恐い。
おそらくその男の命はもうないだろう。
「あ〜あ、カタートに捨てたの?手の込んだ事するわね〜」
「それでもまだゆるせません!!」
「で、奥さんはどうしたの?いくら腹が立っても奥さんは殺せないんでしょう?」
まだまだこの子もあまいわね、と心の中でぼやく。
自分の物にならなければその場で殺す。
それが魔族のやりかただ。
だが、それがゼロスにはできないことはよく知っている。
「・・・・はい、出来ませんでした」
「じゃあ、どうしたわけ?」
「僕がその男を殺す所を全て見せました。貴方が悪いんですよってささやきながらね」
「ふ〜ん、それで頬をひっぱたかれたのね?」
ゼロスは慌てて鏡を取り出して自分の顔を見る。
顔には跡などどこにもない。
・・・・・・魔族なんだから跡などつくはずもない。
「・・・・ひっかけましたね?」
「ひっかかる方が悪いのよ♪それより早く奥さんのもとに帰ってくれない?」
「そ、そんな、向こうが謝るまで絶対に帰らないといって出てきたんですよ〜?」
「そんなの知らないわよ、私には関係ないわ。さっさと帰って仲直りなさい」
「今回は絶対に帰りません!!」
「ふ〜ん、そう?」
ゼラスの唇が意味ありげにつりあげられた。
さっと右手を上げるとゼロスのほうに向ける。
「じゃあ、強制送還しかないわね♪」
次の瞬間、ゼロスの姿は消えた─────!

「ゼラス様!?・・・・・・あれ?ここは」
「宿屋よ」
目の前にはよく知っている少女。
顔を見なくても声だけでわかるくらい怒っている。
「あたしが謝るまで帰ってこないんじゃなかったの?」
「強制送還されちゃったんですよ」
「ふ〜ん、言っとくけどあたしは謝る気はないわ。あんたが悪いんだからね」
「リナさんが悪いんです!!」
「あたしのどこが悪いって言うの!?」
リナは今にも殴りかかりそうなほど怒っている。
「あんな知らない男なんかににっこり微笑んでたじゃないですか!!」
「・・・・・・は?」
「僕にだってほとんど笑ってくれないのに!!しかもあんなに嬉しそうに・・・・・・・」
「そりゃそうよ、あたしの財布拾ってくれたんだから」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
二人の間にいや〜な沈黙が続く。
運悪くもその男はリナの財布を拾っただけで殺されてしまったようだ。
運が悪いにもほどがある。
感謝こそされても殺されるおぼえはないだろうに・・・・・・・。
「・・・・・・・そうなんですか?」
「そうよ!それだけであの男の人殺しちゃうしあたしのせいだとか言うしわけわかんない!!」
「・・・・・・・・そうだったんですか・・・・すいませんでした」
「あたしは何もなかったからいいけどあの人はどうするのよ」
「まぁ、悪人に人権はないといいますし・・・・・・」
これはリナがよく使ういいわけ・・・・。
そもそもあの人が悪人かどうかは誰にもわからない。
もしかしたら善人かも・・・・。
「人のよさそうな人だったわよ?」
「魔族にしたら悪人です!!」
「そんなめちゃくちゃな・・・・・・」
リナはため息を吐いた。
勘違いでしたで済まされる事ではない。
何しろ人が殺されてしまったんだから・・・・・。
魔族にとっては何ともない事でもリナは人間だ、どうしても気になってしまう。
「しかたない、明日にでもお墓を作ってあげてお墓参りしましょ」
「え〜、なんでそんな事僕達がするんですか?」
「あんたが殺したからでしょう!!」
「・・・・だってそれは・・・」
「とにかく!せめてお墓ぐらいは作ってもらうわよ、いいわね!!」
「・・・・・・はい」
有無を言わせぬリナに、ゼロスははいと言うしかなかった・・・・・・。