魔族の事情

<3>

もうどれぐらい走っただろう。
ついさっきまで真上にあったはずの太陽が傾きかけている。
体力ももう尽きかけているので、ちょうどあった泉のそばにぺたんとすわりこんだ。「・・はぁ・・・はぁ・・・・ちょっと走りすぎちゃったわね・・・」
息が切れているので呼吸が荒い。
座っているのもつらいのでそのまま寝転んだ。
目の前には空がどこまでも広がっている。
そこへ、にゅ〜っと影が差した。
どうやら人が頭の上にいるようだ。
リナは顔を確認するべく上半身だけ起き上がり後ろを向いた。
───そこに立っていたのは!!
「なっ!?ゼロス!!」
「こんにちわ」
ゼロスはいつものようにリナにあいさつをする。
いつも通りのニコ目で。
(・・・ちがう!!こいつはゼロスだけどゼロスじゃない!!あたしのことは覚えてない・・・・)
「こんにちわ。魔族がこんなところに何のようかしら?」
「おや?僕が魔族だって知ってるんですか??」
「えぇ、よぉ〜っく知ってるわ」
「ほぉ・・・・?」
ゼロスの片目から紫の瞳が覗く。
リナはビクっとしながらも平常を保とうと努めた。
気を緩ませると今すぐにでも抱きしめたくなる。
目が熱くなる。
胸が苦しくなる。
そんな所を絶対にこいつにだけは見せたくなかった。
「ただの人間じゃありませんね?」
「・・・まぁね」
ゼロスの両目が開かれた。
紫の瞳が鋭く光っている。
(・・・・まずいわね、体力がもうないわ。なんとか逃げられるといいけど・・・)
リナはゆっくりと立ちあがった。
すぐにでも逃げられるように呪文の用意をする。
用意といっても単に集中するだけ、時間はかからない。
その時、ゼロスがさっと右手を上げた──!!
(・・・まずい!!攻撃!?)
リナは慌てて身を呈した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
(・・・・ん?)
何の音もしない。
なにも起っていないようだ。
「なぁ〜んちゃって♪びっくりしましたか、リナさん?」
「・・・・・・は?」
リナの頭の中は文字通り真っ白。
何がなんだかわからない状態だった。
ゼロスはリナのそばに近寄ると、ぎゅ〜っと抱きしめる。
リナは頭が真っ白なためなにも抵抗はしない。
「リナさん、会いたかったです」
「・・・・・・???」
「わけがわからないようですね、説明しましょう。実はですね、この前の事は覇王様の独断だったんです」
リナを抱きしめたまま説明するゼロス。
絶対に逃がさないとばかりに両手でしっかりと抱きしめている。
リナは相変わらず頭が真っ白なので大人しく説明を聞く。
「最近、目をつけていた人間に振られちゃったらしくて・・・・八つ当たりってやつですね」
「・・・・・・・八つ当たり?」
「はい、そうです。それに気づいたゼラス様が覇王様にちょっとお仕置きをして下さったんです」
「・・・・・・・・・・へ〜、そうなんだ」
リナのこめかみ辺りに青筋が立っている事にゼロスは気づいていない。
そのまま説明を続ける。
「それで、ゼラス様から『リナ=インバースとラブラブしてOK♪』とお許しを頂いたんですよ〜!!」
「・・・・・・・・・ふ〜ん?」
「あれ?リナさんは嬉しくないんですか〜?」
ピキピキッ!!
何かが切れる音・・・・・・。
ゼロスはリナの顔を覗きこんだ。
そこで彼が見たものは、そして彼の身に起った事は─────

数日後、カタート山脈になぜかずたぼろになった魔族が二人ころがっていた・・・・・・。
「人間などと恋などするからこういう事になるのだ、ふんっ!!」
「貴方様こそ八つ辺りなどされるから僕の上司様にお仕置きされるのですよ」
動けない二人はまさに生ゴミだった。
これこそほんとの生ゴミ魔族!?