懺悔のトキ
今日はものすごく自分が自分じゃなかった。
不安で不安で仕方がなくて、泣きたくないのにこらえられなくて・・・・。
ずっと握り締めていたあたしの右手は白く、冷たくなっている。
でもそれ以上にあいつは・・・・・・・。
「なんでこうなるのよぉ・・・・・」
白いあたしの右手の上に、小さく水溜りができた。
前兆はものすごく前からあったのだ。
たとえば一緒にいるのになにか足りないとか・・・・・。
一緒に話してるのになんかつまらないとか・・・。
信じたくはなかった。
だってこんなにもあたしを好きでいてくれるこの人をあたしもずっと好きでいたかったから。
少し距離をあけようと言い出したのはずいぶん経ってのことだった。
「あのさ、なんとなく距離を少しだけでいいからあけてみない?」
突然のあたしの提案に、あなたは驚いて、そして目を伏せた。
その青い目があまりにも悲しそうに見えて、あたしは笑った。
「ぷっ、冗談よ?なに捨てられた子犬みたいな顔してんのよ」
別に嬉しくもない特技の一つ、演技。
あとでアメリアにはきつい一言をいわれたっけ・・・・。
「リナさんって演技うまいんですね、あんなに楽しそうだったのに・・・」
そういわれて、またもあたしは笑った。
そう、楽しそうに。
だってどんな顔してればいいのよ?
無理をすれば顔はこわばるのよ?
だったら演技するしかないじゃない?
だからあたしは演技を続けたのよ、悲劇の脇役を。
主役はあの人。
あたしはその引き立て役ってところね。
「あのさ、わかれていい?」
この一言であたしの出番は終わり。
あとは主役の悲しい日々がメインとなるんだから。
演技を続ける必要はなくなる。
でも・・・・・・でも・・・・・・。
あたしの望みは何だった?
一緒にいることじゃないの?
近すぎるから距離をおくことじゃなかったの?
どこで間違えたのよ、あたしは!!
なんであいつを突き放したあとで間違いに気づくのよ!!
毎日毎日、一人で何かをするたびにストレスはたまっていく。
だんだんと胃の痛みが増してくるのにも気づいていたわ。
常に胃が重い感じがして、食欲は失せる。
一週間もしないうちにあたしの体重は激減した。
アメリアからあいつの情報は常に入ってくるようになっている。
だからあいつの行動がおかしいのは知っていた。
ほとんど寝もしないで食べもしないでぼけっとしているらしい。
そりゃぁそうよ、完膚なきまでに打ちのめしたんだからあたしが。
毎週毎週、アメリアとゼルがあいつのもとに通ってるって。
そう聞いたときには少し腹が立った。
目の前で恋人同士が幸せそうにしている姿を見るのが一番つらいのに。
そう思った後で、そういう事態に追い込んだのはあたしだということを思いだす。
事実、アメリアとゼルに会う度に二人の何気ないしぐさや動作があたしをよけい寂しくさせていた。
『だったらよりを戻せばいいじゃない』
自分の中で何度も聞こえてくる言葉。
でも出来ないの。
あたしの邪魔なプライドや、自尊心や、いろんなものが壁になってて。
それによりを戻せば距離をおけなくなる。
そしてまたあたしは息苦しくなる。
もっと最初から何でも話せばよかったね。
もっとあたしが素直になればよかったね。
もっともっと一緒にいたかったね。
もっともっと、もっとあなたを愛していたかったよ。
そんな簡単なことに気がついたのは、あの人に再び笑顔を戻してくれる人が現れたときだった。
その人はやさしくてかわいくてそしてちょっと気の強い女性だって。
その人をあたしと同じように愛さないで。
あたしに笑ってくれたように笑わないで。
お願いだからあたしを忘れないで。
だれもいない一人で取った宿で、昼間にもかかわらずあたしは泣きじゃくった。
少しお酒が入っていたからだろうか・・・・・・・。
その日は素直に泣きたいだけ泣いた。
水溜りが手の上だけでは収まらなくなるほどに。
大事なものほど、近いとよく見えなくなる。
優しさだって、慣れればわからなくなってくる。
無くす怖さは無くなってみなければわからない。
一人の寂しさも、二人の時には想像できない。
あなたがいないとあたしでいられなくなっちゃったよ・・・・・・。
「がうりぃー・・・・・・・・・」
久しぶりに呼んだ名に、あたしはしばらく締め付けられた。
|