子離れ

とうとうこの日が来てしまった・・・・・。
いつか来るのはわかっていたのに、僕は忘れていた。
いや、わざと忘れていたのかもしれない・・・・・・・。

事の起りは今朝、久しぶりにゼラス様の所に帰った時だった。
ゼラス様がいつになく機嫌が良いからおかしいとは思ったのだ。
「ゼ〜ロス!」
会ったとたんにゼロス様はに〜っこりと笑って僕の首に抱きついた。
少し酒の匂いがしたのでその時は酔っていらっしゃるのかなとしか思わなかった。
「どうしたのですか?ゼラス様」
「ふふふ、良い知らせがあるのよ」
「良い知らせ、ですか?・・・」
普段からゼラス様の言う良い知らせはろくな事がない。
大体が僕にとっては悪い知らせな事が多い。
「リナ=インバースを殺す事が正式に決まったのよ!」
「な!?こちらに引き入れるために生かしておくのではなかったのですか?」
「だってしょうがないじゃない、仲間になる気がちっともないんだもの」
僕はなにも言えなかった。
リナさんが魔族になる気がないのは僕がよくわかっていたから。
リナさんは不老不死なんか望まない、人間としての生しか望まないのだ。
「と言う事だから、さっさと殺してきてくれない?」
「・・・・・・・・・」
「ゼロス、聞いてるの?」
「・・はい、聞いています」
本当は聞いていなかった事にしたかった。
でもゼラス様に逆らう事は出来ない。
僕はなんだかやるせなくなって、両手を思いっきり握り締めた。
「なに両手なんか握り締めてるの?」
「なんでもありません・・・」
なんでもなくなんかなかった。
リナさんを殺せ言われたのだから。
いくら僕が魔族でも気に入っている者を殺したくはない。
「じゃあ今から殺しに言ってきなさい」
「・・・僕は・・・」
「何?」
ゼラス様は妙に真剣な顔になった。
ゼラス様に逆らいたくない。
でもリナさんを殺す事なんて出来ない。
僕はどうすれば良いかわからなくなった。
しかしこのままではリナさんを・・・・・・。
・・・それだけはいやだ!
「・・僕には・・・でき・・ません・・」
「そう、じゃああなたはもう必要ないわ」
ゼラス様は冷たくそう言った。
必要ないという事は、僕はここで滅ぼされてしまうのだろうか。
滅びる時はリナさんと一緒がよかったな。
などと考えていると、ゼラス様はあっさりとこう言った。
「必要ないからどこかに行ってしまいなさい」
「は?・・・・・・」
僕は何を言われたのか一瞬わからなかった。
・・・・どこかに行く?滅ぼすのではなく?
僕はゼラス様が「じゃあ、滅ぼしちゃいましょう!」と言うと思っていた。
「ここにはいらないって言っているのよ!」
「え〜っと、どういうことでしょうか?」
「もう、バカな子ね!」
ゼラス様は僕の方に手をかざした。
その瞬間、僕の意識は無くなった・・・・。

目を覚ますとそこはどこかの部屋ようだ。
マントを脱がされてベットの上に横になっている。
ふと横を見ると、マントがていねいにたたんでおいてある。
少しふらつくが、とりあえず身を起こす。
すると誰かが部屋に入ってきた。
「あれ?目が覚めたみたいね。気分はどう?」
「・・・リナさん?」
すこしはねている栗毛の長い髪。
魔族には無い力を帯びているまっすぐな瞳。
まちがいなくリナさんだった。
「びっくりしたわよ。あんた、急に落っこちて来るんだもん」
「落っこちて?・・・・・・あ、そうか!」
やっと事態がのみこめた。僕はゼラス様に飛ばされたのだろう。
リナさんの所に落ちたのは偶然なのだろうか?
偶然じゃないとしたら、ゼラス様は始めから・・・・・・・・。
「リナさん、今日からまたお世話になります」
「え、また一緒に来るの?今度は何が目的なのよ」
「いやぁ、実は僕くびにされちゃったんですよ。だから目的はリナさんだけです」
「な、何を!!」
リナさんは真っ赤な顔でじたばたしている。
そんなリナさんを僕は笑って見つめていた。
いつもとは違う、純粋な笑みで・・・・・・・。

ゼロスを飛ばした後、ゼラスは一人でぼ〜っとしていた。
そこに突然グラウシェラーが現れた。
「ゼラス、なぜ嘘をついてまでゼロスをくびにしたのだ」
そう、リナを殺すなんて決まっていなかったのだ。
あれはゼラスがついた嘘だった。
「あの子がかわいいからよ。いけないかしら」
「俺はどうでもいいが回りはゆるさないだろう。何をされるかわからないぞ」
「危なくなったら助けてくれるでしょ?」
「・・・・・危なくなったらな」
そう言うと、グラウシェラーは再び消えてしまった。
「何しに来たのかしら?なぐさめにきたのかもね、ふふ」
今頃赤くなっているに違いないグラウシェラーの顔を思い浮かべて、ゼラスは自然と笑みがこぼれた。