魔族の事情

<1>

3日前、あるひとりの高位魔族が記憶を失った。
その魔族の名は獣神官ゼロス。
魔族の中ではかなりの位にいる魔族。
その原因は・・・・・・・・・あるひとりの人間の少女との恋・・・・・・。
二人の仲を知っていたのは彼の上司である獣王ゼラス=メタリオムだけだった。
しかし、どこからもれたのかいつのまにか覇王グラウシェラーの知るところとなり選択を迫られた。
ゼロスに残された選択はたったの2つ。
ひとつは今までの事は悔改め、今すぐに少女を殺すこと。
もうひとつは、ここで今すぐ滅ぼされるか・・・・・・・・。
ゼロスはすぐに答える事は出来なかった。
もし、ここで自分が滅ぼされる道を選んでも少女は魔族の手にかかって死ぬだろうと思ったから。
それならばいっそのこと自分で殺してしまおうか・・・・・。
・・・・・それもしたくない。
彼女には生きていてほしい。
せっかく見つけた唯一の光を失いたくはない。
そこでゼロスはある提案を申し出た。
彼女にはまだ使い道がある、それならば自分に関する記憶を消してはどうかと持ちかけたのだ。
覇王はすぐには承諾しなかった。
しかし、ある条件付でなら承諾してもよいと言った。
その条件とは少女の記憶を消すだけでなくゼロスの記憶も消す事。
ゼロスはその条件をのんだ。
覇王に一礼すると、すぐに少女の元へと空間を渡った。
「こんばんわ、リナさん」
最初に言ったのはいつものあいさつ。
表情もいつも通りの何を考えているのかよくわからないにこにことした笑顔。
人間の少女、いやリナもいつも通りに答える。
「何のよう?」
ゼロスは音も立てずにリナに近づくと、軽く顎を持ち上げて唇を奪った。
そして、急な事に何も言えないリナに用事を伝える。
「今日は僕達の記憶を消しにきました」
リナはなぜ?とは聞かなかった。
「そう」
この一言だけ答えると、全身の力を抜いて静かに目を閉じた。
ゼロスは予想外の態度に呆気にとられながらも用事を済ますために呪文を唱える。
リナは一言も聞き漏らさないよう耳を集中させた。
こんなに集中して聞いててもこの声を忘れてしまうのね、と心の中で呟きながら・・・。
「リナさん目を開けてください。もう終わりましたよ」
「え?何も忘れてないわよ?」
「忘れるまでに時間がかかる呪文にしましたから。と言っても1,2分で忘れちゃいますけどね」
そういってゼロスは近くにある椅子に座った。
「何してるの?もう忘れちゃうんでしょ?」
相変わらずリナの返事は冷たい。
必死で平常を保とうとしてこうなってしまうのだ。
リナ自身もわかっていた。
もちろんゼロスもわかっているだろう。
「1分でも長くあなたの顔を見ていたいんです」
「どうせ忘れるんだから早く消えてよ」
「・・・・あなたは忘れません」
「・・・・え?」
「呪文をかけたのは僕だけです。リナさんにはかけてませんよ」
ゼロスは得意そうに話す。
「ゼロス!?あんたなに考えてるのよ!!あたしを苦しませる気?」
リナはゼロスにつかみかかった。
しかしゼロスは自分を掴んでいるリナの両手をやんわりとどけ、自分の手で包む。
「僕の事を忘れないでほしかったんです。例えそれがリナさんを苦しめる事になっても・・・・」
「そんな!!自分だけ忘れるなんて卑怯よ!!ひどすぎる!!」
「僕は魔族ですからね♪卑怯な事は得意なんですよ♪♪」
おどけてそう言うと、ふわりと宙に浮び───消えた。
残されたリナはただただ呆然とたっていた・・・・・・・。