そして始まる
<1>

魔族のいる世界、アストラルサイド。
そこはあって、ないような矛盾に満ちた場所。
人間には入る事のできない魔族の聖地と呼ぶ事のできるただ唯一の場所。
そこに初めて人間が入りこんだ─────

「ゼラス様、連れてまいりました」
獣神官ゼロスがかしこまって挨拶をしている。
その相手はもちろん獣王ゼラス。
大きめの椅子にゆったりと座りゼロスの報告に耳を傾けている。
ゼロスとゼラスの間には棺の大きさほどの台が置いてあり、その上にリナが寝かされている。
いつもの強気で人の目をひく紅い瞳は閉じられていた。
胸のかすかな上下運動だけが生きてる事を証明している。
「ご苦労だったわねゼロス。で、リナ=インバースにはもう処理を施したの?」
ゼラスは組んでいる足を組みなおして、何もない空間に手を伸ばした。
その手が一瞬ぱっと光ると手には黒を基調とした服が握られていた。
ゼロスには小さすぎるしゼラスには胸が苦しそうなサイズ。
一体何のために・・・・・?
ゼロスはその服を見て小さく笑うと、質問の答えを楽しそうに答えた。
「いえ、まだ何もしていませんよ。こっちの世界に入るために僕の結界で包んだだけです」
「なんでそんな嬉しそうに答えるのかしら?」
「服まで用意していらっしゃるとは思いませんでしたので」
ゼラスはおもしろくなさそうな顔をすると、椅子から立ちあがってリナの前に立つ。
右手をリナの上にかざして力をこめた。
次の瞬間、リナの寝ている台から淡い光が浮き上がってくる。
その様子を見ていたゼロスがゼラスに声をかける。
「僕もお手伝いした方がいいですか?」
ゼロスが手伝いを申し出るところからすると、どうやら面倒なことをするらしい。
ゼラスは何も言わずにただ首を横に振った。
それを拒否と受け取ったゼロスはやる事がないので辺りをきょろきょろと見まわす。
ふと、さっきの服が目にはいった。
(ふ〜む、アイロンがけでもして待ってましょう)
ゼロスはどこから持ってきたのかアイロンを手に持ち、器用な手つきでアイロンをかけ始めた。
その間もゼラスはひたすら手に集中してリナに術を施す。
(ったく!!あの子は何やってるのよ・・・・・。あれは私の欠片だからそんな事しなくていいに決まってるでしょう)
手に集中はしているものの、愚痴はしっかり忘れないところがすごい・・・・・。
術をかけ始めてから十分後ようやくゼラスが口を開いた。
「・・・・はぁ、めんどうだったわ。ゼロス〜、終わったわよ」
「こちらもアイロンがけが終わりました♪」
ゼロスの手の上にはしっかりとアイロンがけをされてぴしっとした服。
ゼラスは呆れて何もいえなかった・・・・・・。


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