強く儚い者たち

<前編>

 

どこからともなく美しい歌声が聞こえる──


   ♪〜愛する人を守るため
      大切なもの築くため
      海へ出たのね   

      嵐の中で戦って  
      突風の中生きのびて
      ここへ来たのね    
                                     
      この港はいい所よ 
      朝陽がきれいなの
      住みつく人もいるのよ  
      ゆっくり休みなさい  
      疲れた羽根を癒すの   
  
      だけど飛魚のアーチをくぐって  
      宝島が見えるころ        
      何も失わずに           
      同じでいられると思う?     
  
      人は弱いものよ     
      とても弱いものよ〜♪

声からすると、女性のようなのだが・・・・・・・。
あたりに広がる瘴気からこの女性が普通の女性ではない事がわかる。
そこに、ふっと青年が現れた。
椅子に座っている女性の前まで音も立てずに歩くと、目の前にひざまずく。
「お呼びですか?ゼラス様」
「早かったわねぇ、ゼロス?」
意味ありげに強調するゼラス。
きれいに整った眉を片方上げて、唇も吊り上げる。
「ゼラス様に呼ばれたので急いできたんですよ」
顔には何も出さずに無表情で答えるゼロス。
ゼラスは気にくわなかった。
そりゃそうだろう、自分が創ったものなのに何を考えているかわからないのだから。
こんな事は初めてだった。  
いつもだったらゼロスにいちいち聞かなくても何を考えてるかぐらいはわかった。
それ以前に、ゼラスにいわれた事以外は絶対に何もしなかったのだ。
たまに、いたずらをしにいっていたようだが・・・・・。
あるとしてもいたずら程度だったはず、しかし今は違う。
こともあろうに人間を想っているそうだ。
魔族にはあるまじき行為。
が、ゼラスが気にくわないのは別の事。
魔族にあるまじき行為だろうが何だろうがゼラスの知った事じゃない。
そんな事はどうでもよかった。
(まったく・・・・・。わたしがなんで呼びつけたかわかってないのかしら?)
ゼラスは腹いせにちょっとばかりゼロスをいじめることにした。
「じゃあ、さっそく仕事よ。リナ=インバースを始末してきて」
今度はゼラスの思ったとおりの展開。
さっきまで無表情だったはずのゼロスの顔が少し変わった。
瞳を閉じてニコ目だったはずなのに、両方とも見開かれて紫の瞳が見える。
今頃どう返事をしようか困っている事だろう。
ゼラスはくすっと笑うと椅子から立ち上がって、ゼロスの前に立った。
「ゼロス、返事はどうしたのかしら?」
「そ・・それはっ・・・・・」
一瞬肩をびくっと震わせた後、苦しそうに言葉を紡ぐゼロス。
そのゼロスの顎をゼラスは片手でくいっと上げた。
されるがままのゼロス・・・・・・。
「ねえ、ゼロス」
ゼラスが優しくゆっくりと話しかける。
威圧感はたっぷりある。一瞬で殺されそうな雰囲気だ。
「はい」
それでもいつも通りに答えようと努めるゼロス。
ゼラスはにこっと微笑むと、あいてるもう片方の手を上げた。
(・・・リナさん・・・・・もう会えないかもしれません・・・・・)
ゼラスの手のひらに力が集まってゆく。
滅ぼされるのを覚悟したゼロスは両目を閉じた。
(なんか勘違いしてるわねぇ、この子・・・・・・。まぁ、いっか♪)
そのまま手のひらに力をこめるゼラス。
そのうち手の上が眩く光だした──!!
やがて光が収まるとそこには・・・・・・・。
「ゼ〜ロスちゃん、これなぁんだ?」
言われて瞳を開くとそこには思ってもなかったものが!!
「そ、それはっ!!!」